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前世でベリル様とマーズの話
ヴィーナスとマーキュリーはよく地球へ行きます。
続きからどうぞ。
ヴィーナスとマーキュリーはよく地球へ行きます。
続きからどうぞ。
背筋を伸ばしザワザワと騒がしい市場を歩く。
あちこちで客を引く声が飛び交っている。
この喧騒は月の王国の静けさと対照的で、しかし心地がいい。
任務が終わり、適当に見つけたカフェテラスでお茶を飲みながら資料をチェックする。
別段急ぎのものでもなかったけれど、もうしばらく喧騒に耳を傾けていたかった。
――まったくマーズは固いわね。
以前はそんな風に言われていたけれど。
いつの間にか能天気な仲間に染まってしまったのだろうか。思わず苦笑が浮かんだ。
どこかからか音楽が聞こえてくる。
長い髪が風にのって形をかえる。
一緒に空へ舞ってしまいそうな書類を手で押さえようと苦戦しているとふいにテーブルに影が落ちた。
視線をあげて影の主をみた私は驚く。
長身で綺麗にウェーブした赤毛。彼女の姿は地球国の舞踏会に呼ばれた時にみたことがある。
「ベリル……様でしたか?」
「えぇ。覚えてくださって光栄です」
そう言って彼女は固かった顔を崩した。
――珍しい
ベリル様は城に勤めているはずだ。こんな下町で逢うなんて。
私は手で空いた席に座るように促す。ベリル様が注文しているのを横目でみながら資料をしまった。
「いかがですか、地球は」
「嫌ですわ、なにも偵察に来ているわけではありませんよ」
気持ちいい風が二人の間を吹き抜ける。
「そういうベリル様は今日はどうしてこちらへ?」
「……ずっと探していた占いの書があると聞いたので、エンディミオン様に暇をいただいたのです」
そういって少し恥ずかしそうにベリル様は顔を伏せる。そんな彼女の様子にほほえましいものを感じながら会話を続けた。
しばらくして運ばれてきたお茶を楽しみながらさらに二、三言葉を交わしたところで周囲の異変に気付いた。
初めは月の者がいるのが珍しいのかと思った。しかし私の顔は城に勤めているもの以外に知られてないはず。だから下町を警戒せず歩けるのだ。
しょっちゅう遊びにきてるヴィーナスはともかく。
ため息混じりに周りを観察しているとベリル様に視線が集中しているのがわかった。
彼女のほうをみてあらかさまに顔をしかめる人間もいた。
彼女の赤い髪は地球国では珍しいが、特段目立つものではない。
「魔女だ」と囁きが私に届く。無遠慮なことばに思わず身を固くした。
「――わたくしも月の人間に生まれたらよかったのかもしれません」
その声にハッと顔をあげて彼女を見つめる。
周囲の視線を背負って向かい合った彼女の表情は透き通っていて読むことが出来ない。
けれどその表情にまだ火星にいた頃の自分と姿が重なった。
先が見える力。他人がじぶんのなかに流れ込む感覚。
周囲とじぶんは違うのだと、はだでかんじたあの頃。
迫ってきた思い出を振り払おうとそっと息をはく。
「……きっとそうでもありませんわ。集団と言うのは異なるものを嫌いますから」
そしてなぐさめでもなく、ただ感想を漏らす。
それでも言外に含んだものは彼女には十分伝わったようだった。今度は彼女がハッとして顔を曇らせた。
「すいません。こんな話をするつもりはなかったのですが……」
そういってすまなそうに眉をひそめる。
「いいえ。お気になさらず。――ところでベリル様のお探しの書、確か私が持っていたはずなので今度お持ちしましょうか」
「まぁ」
彼女は破顔し口に手を当てる。
その仕草はさっきまで顔を曇らせていた人物とはまるで別人のようで私は目を細めた。
日が暮れ、あまり遅くならないようにとベリル様に別れを告げた。
任務以外をたのしむ余裕を持った自分に気付いて、やはり仲間の影響を強く感じながら帰路につく。
今度逢う時はもっと深く占いの話などしてみよう。
それはいつになるかはわからないけど。
けれど、約束があるから。そう言って地球に降り立つのもきっと悪くない。
一度は笑いあいながらテーブルを囲んだ二人が剣を取り合うのはそれからほんの数年後の話。
------------------------------------------
ベリル様は月自体に恋焦がれた時期があったんじゃないでしょうか、という話。
彼女はきっと可愛い人。
あちこちで客を引く声が飛び交っている。
この喧騒は月の王国の静けさと対照的で、しかし心地がいい。
任務が終わり、適当に見つけたカフェテラスでお茶を飲みながら資料をチェックする。
別段急ぎのものでもなかったけれど、もうしばらく喧騒に耳を傾けていたかった。
――まったくマーズは固いわね。
以前はそんな風に言われていたけれど。
いつの間にか能天気な仲間に染まってしまったのだろうか。思わず苦笑が浮かんだ。
どこかからか音楽が聞こえてくる。
長い髪が風にのって形をかえる。
一緒に空へ舞ってしまいそうな書類を手で押さえようと苦戦しているとふいにテーブルに影が落ちた。
視線をあげて影の主をみた私は驚く。
長身で綺麗にウェーブした赤毛。彼女の姿は地球国の舞踏会に呼ばれた時にみたことがある。
「ベリル……様でしたか?」
「えぇ。覚えてくださって光栄です」
そう言って彼女は固かった顔を崩した。
――珍しい
ベリル様は城に勤めているはずだ。こんな下町で逢うなんて。
私は手で空いた席に座るように促す。ベリル様が注文しているのを横目でみながら資料をしまった。
「いかがですか、地球は」
「嫌ですわ、なにも偵察に来ているわけではありませんよ」
気持ちいい風が二人の間を吹き抜ける。
「そういうベリル様は今日はどうしてこちらへ?」
「……ずっと探していた占いの書があると聞いたので、エンディミオン様に暇をいただいたのです」
そういって少し恥ずかしそうにベリル様は顔を伏せる。そんな彼女の様子にほほえましいものを感じながら会話を続けた。
しばらくして運ばれてきたお茶を楽しみながらさらに二、三言葉を交わしたところで周囲の異変に気付いた。
初めは月の者がいるのが珍しいのかと思った。しかし私の顔は城に勤めているもの以外に知られてないはず。だから下町を警戒せず歩けるのだ。
しょっちゅう遊びにきてるヴィーナスはともかく。
ため息混じりに周りを観察しているとベリル様に視線が集中しているのがわかった。
彼女のほうをみてあらかさまに顔をしかめる人間もいた。
彼女の赤い髪は地球国では珍しいが、特段目立つものではない。
「魔女だ」と囁きが私に届く。無遠慮なことばに思わず身を固くした。
「――わたくしも月の人間に生まれたらよかったのかもしれません」
その声にハッと顔をあげて彼女を見つめる。
周囲の視線を背負って向かい合った彼女の表情は透き通っていて読むことが出来ない。
けれどその表情にまだ火星にいた頃の自分と姿が重なった。
先が見える力。他人がじぶんのなかに流れ込む感覚。
周囲とじぶんは違うのだと、はだでかんじたあの頃。
迫ってきた思い出を振り払おうとそっと息をはく。
「……きっとそうでもありませんわ。集団と言うのは異なるものを嫌いますから」
そしてなぐさめでもなく、ただ感想を漏らす。
それでも言外に含んだものは彼女には十分伝わったようだった。今度は彼女がハッとして顔を曇らせた。
「すいません。こんな話をするつもりはなかったのですが……」
そういってすまなそうに眉をひそめる。
「いいえ。お気になさらず。――ところでベリル様のお探しの書、確か私が持っていたはずなので今度お持ちしましょうか」
「まぁ」
彼女は破顔し口に手を当てる。
その仕草はさっきまで顔を曇らせていた人物とはまるで別人のようで私は目を細めた。
日が暮れ、あまり遅くならないようにとベリル様に別れを告げた。
任務以外をたのしむ余裕を持った自分に気付いて、やはり仲間の影響を強く感じながら帰路につく。
今度逢う時はもっと深く占いの話などしてみよう。
それはいつになるかはわからないけど。
けれど、約束があるから。そう言って地球に降り立つのもきっと悪くない。
一度は笑いあいながらテーブルを囲んだ二人が剣を取り合うのはそれからほんの数年後の話。
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ベリル様は月自体に恋焦がれた時期があったんじゃないでしょうか、という話。
彼女はきっと可愛い人。
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